日本の猫:

 バイトの帰り道、一匹の子猫を見かけた。子猫といても立派なもので、何となく、その愛らしい姿から子猫と連想しただけなのだが。

 耳と両目の周りが茶色くなっていて、まるであらいぐまの様な顔をしている。背中は薄い茶色をしており、その他は白。思わずケータイのカメラを向けたが、怖がる様子も無くすんなりと撮らせてくれた。手を振ると「なんだなんだ?」とでもいいた気に私を見ていたが、興味がなくなったのだろう。ふいとどこかに行ってしまった。

 電車の窓からは深々と降る白い雪が見える。車内は人から出る熱気で満たされ、窓は明日の景色を映すように白く曇っていた。

 電車から降りて、家の最寄り駅に着くと、電車に詰め込まれていた人がわっと吐き出され、皆それぞれ自分の家へ急いで帰っていった。今日は寒い。二,三日春を感じざるを得ない様な気温が続いた為、今日が一層寒く思える。エスカレーターを降り、私もコートの襟を立て、家へと急いだ。1DKのアパートだが、駅からも近く、それなりに満足はしている。 途中公園へ入った。ここを通過する方が近道なのだ。
 そこで私はまた野良猫を見た。丸々と太っていて、動きものっそりとしている。私に興味があるのか、猫にしては珍しくじっと視線を放さなかった。お互い視線に縛られたように見つめ合う。私はその猫が目で訴えている事を理解しようと、必死に猫の目を見つめた。ふいに、猫が笑った様に見えた。私を――いや、私たち人間をバカにした様な笑い方に、驚きよりも先ず何かメッセージがあるような気がした。が、公園に集まっている子供の一人が空き缶を投げ、その音がカラリと響いた。体の割りに胆が小さいのか、猫は驚いて茂みの中へと身を隠してしまった。
 結局、何を伝えたかったのか分からないまま、私は家に着いた。コンビニで買ったお弁当を温め、テレビを点けた。

「アフリカでは――」

 アフリカの飢餓の状況を伝える特集だった。ひび割れた大地に乾ききった空気。遠くの景色は、パノラマで蜃気楼がかかっている。そこに住む人々は、皮と骨の体を空しく太陽の下にさらしていた。母乳を与えたくても出ない母親。荒れ果てた大地で呆然と前を見つめる子供。電子レンジがチンと音を立てて調理の終了を知らせ、私はソファから立ち上がった。
『栄養満点海苔弁当』
 弁当をつつきながら私はまたテレビの前に戻った。餓えている人を見ながら出来合いの弁当を当たり前の様にパクつく。自分のせいでも、まして彼らのせいでもないのに何故か罪悪感を感じる。丁度、番組ではユニセフの人達が脱脂粉乳を配給しているところが映されていた。そこには、自分の分を惜しんで子供に分け与える母親がいた。弁当の残りを口に入れ、お茶で流し込む。漬物が残っている事も知らず、私は容器をゴミ袋へと投げ込んだ。テレビでは相変わらず極貧の生活がどんなものかを流しており、随時下の方に募金の振込先が流れていた。気持ちが暗くなるのを感じ、私は目を背ける様にしてテレビを消した。
 その時、ふとあの猫の嘲るような笑いが暗いテレビの画面に浮かんだような気がした。

 

 中途半端だとお思いですか?
 このお話はここまでです。結末の無いお話は逆に想像を掻き立て、筆者が考えた以上の結末を読者に考えさせる事ができます。
 皆さんはどう想像しますか?

 

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